人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「小さな村の小さなダンサー」

 
 
  作品情報  
 
   原題    Mao's Last Dancer
   監督    ブルース・ベレスフォード
   脚本    ジャン・サルディ
   出演者      ツァオ・チー
          ジョアン・チェン
          グオ・チャンウ
          ホアン・ウェンビン
   公開     2010年8月28日
   上映時間      117分
   製作国    オーストラリア
 
  あらすじ  
 
中国の小さな村に生まれ、毛沢東文化政策による英才教育で
バレエの道を志した少年、リー・ツンシン。
成長後はアメリカに渡り、そのたぐい稀な才能を認められる。
ダンサーとしてさらなる成功を望む彼は自由な新天地に大きな夢を託すが、
それは彼と家族にとって新しい人生の始まりだった……。
 
  感想   
 
日本が高度成長期を突き進んでいる時、
中国は文化大革命という惨劇と狂気の中にいた。
 
改革開放とは名ばかりの、大粛清。

資産家や地主、医者や教授に至るまで、
富裕層はブルジョア的、西側だといって徹底的に排除され、

毛沢東の思想に背いているとされれば、
反革命分子と言われ、暴行され処刑された。
 
紅衛兵と言われる少年少女を利用し、
まさに信じがたい圧政を行っていた時代。
 

この映画は、そんな時代を生きた
リー・ツンシンという一人の少年の物語だ。
 

貧しく小さな村に、彼は7人兄弟の6番目として生まれた。
 
ある日、北京から視察団がやってきて、
身体能力を買われたツンシンは、

江青の政治的な文化政策の一環である、
バレーダンサーの養成学校に入学することが決まる。
 
家族や村人は大喜びするが、
まだあどけない少年ツンシンが旅立つ時、
母は言う。
 
「行きなさい。振り返らないで。」
 
 
「西側は退廃していて、実にむごい生活を送っている。
毛沢東の今の政治がいかに素晴らしく、
自分たち程幸せなものはいない」と、
思い込まされるツンシンたち。
 
西側を批判するくせに、バレエはいいのか、
と頭を傾げたくなる政策だが、
ツンシンはひたむきに努力を続ける。
 
足に重りをつけて、
階段を飛び跳ねる姿は、美しく、逞しく、純粋で、
彼の輝かしい未来を願わずにはいられない。
 
 
やがて、実力が認められアメリカに渡ったツンシンは、
真実の広い世界を知ることになり、亡命という決断を下す。
 
革命の終結をむかえてはいたが、
もしかしたら、
父や母には、もう一生会えないかもしれない。

それだけじゃない。
自分が亡命したせいで、家族に危害がおよぶかもしれない。
 

祖国を捨てるという事は、家族も捨てるということなのか。
その覚悟は、想像に絶する。
 
 

生まれてくる国を人は選べない。
 
ツンシンのように亡命出来た人は、
まだ幸せなのかもしれない。
 
文化大革命の名のもとに、
多くの無実の人々が死んでいったのだから。
 
ツンシンを演じたツァオ・チー、
バレエ学校時代を演じたグオ・チェンウ、
ともに、イギリスとオーストラリアのバレエ団に所属する
プロのダンサーだ。
 

磨き抜かれた究極の肉体が、
高く、高く跳躍するのを見た時、

私達は、そこに、何ものにも屈っせず
力強く運命を切り開いて行く
人間の強さとしなやかさを見る。
 
 
文句のつけようがないラストシーンは、
本当に素晴らしく、涙が溢れて止まらなかった。