人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「スープ・オペラ」

 

  作品情報 

 

   監督    瀧本智行

  原作     阿川 佐和子  「スープ・オペラ」(新潮文庫)
   脚本    青木研次
   出演者   坂井真紀
          西島隆弘
          藤竜也
          加賀まりこ
   公開     2010年10月2日
   上映時間  119分
   製作国   日本

 

  あらすじ 

 

阿川佐和子の同名小説を坂井真紀主演で映画化したハートウォーミング・ドラマ。ひょんなことから2人の男性と共同生活を始めた独身女性が、おいしいスープがとりもつ奇妙にして温かな関係の中でしなやかに生きていく姿を丁寧な筆致で綴ってゆく。監督は「イキガミ」の瀧本智行。大学の図書館で働く女性ルイは、母親代わりの叔母トバちゃんと2人暮らし。しかし、そのトバちゃんはある日突然、年下の男性と結婚すると宣言して家を出て行ってしまう。古い一軒家でひとりぼっちとなってしまったルイ。ところがそれも束の間、猫を追って庭に迷い込んできた自称画家の風変わりな初老の男性トニーと出版社でバイトする青年・康介がひょんな成り行きから居候することになり…。

 

  感想   

 

まず、スープ皿にご飯を少し。
 
そこに、黄金色に輝くスープを注ぎ、

キッチンで育てているハーブを、
大雑把に千切って乗せる。
 
冒頭の、トバちゃんの流れるような仕草で作られるスープご飯。

「じゅる」っと、よだれが垂れそうな美味しそうな一皿に、
ノックアウトされた。

そうか、美味しいスープはご飯にかけるだけでも、
一品料理になるのか!!

衝撃。

「これさえ作っておけば安心なんだからね。」と言う、
「なかのご飯の一粒一粒が透けて見えるほどに、
完璧に澄み切った鶏ガラスープ。」

この大切な、美味しい、
幸せなスープを散りばめた、
優しくて、ちょっぴり切ない大人の物語。
 
 
なんだか、ちょっと、トボけた感じのトニーさんと、
いつも笑顔の草食系男子康介が、

あれよあれよと言う間に
一緒に暮らすことになってしまった時、

こんなのって、あり!?
と、またまた衝撃を受けたけれど、
 
次第に「あり」だなぁ。となってくるから、不思議。
 
きっと何度も一緒にする食事が、
全くの他人同士を、
とても近しいものにしてくれているのだろうと思う。
 
観ている方も何だか無防備に
親近感が湧いてくるのだ。
 
だって、楽しそうなんだもん、
3人の食卓が。

食を介して、スープを介して、
もっともっと近づく3人。
 
家族なのか、家族じゃないのか。

好きなのか、好きじゃないのか。

これで良いのか、良くないのか。
 

ハッピーエンドと言っていいのか、いけないのか。

この曖昧な感じが、実に心地良い。
 
私が歳をとったからだろうか。

目くじら立てて、真実を見ようとしなくても、
開かない扉を無理やりこじ開けようとしなくても、

そんなの別にいいじゃない!と
言える年齢に多分なったのだろう。
 
若い時は変に潔癖な部分があって、
今考えると、恥ずかしいし、
もったいなかったなと思うのだけれど。。
 
 
原作では、登場人物の、ある作家の言葉を借りて、
作者である阿川さんは、こう言っている。
 
「人間と人間の出会いというものは、
 そこに恋愛感情とか特別の感情が
 付随しない場合でも、
 あるいは関わった期間がどれほど長くても短くても、
 それには関係なく、
 人生にとってかけがえのないものになる場合が
 あるという事です。」

そして、トニーさんは言う。
 
「どこの誰であろうと、
 毎日を充実させて生きていくことの方が大事なんだよ。」
 
 
誰かと一緒に暮らしても、
 
一人でも、

きちんと、手間暇かけて美味しいスープを作れるような、
そんな充実した毎日を送りたい。
 
と、思わせてくれる、最高に「美味しい」映画。