人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「ぼくを探しに」

 

  作品情報 

 

原題   Attila Marcel

監督   シルバン・ショメ

脚本        Sylvain Chomet

出演   ギョーム・グイ

     アンヌ・ル・ニ

     ベルナデット・ラフォン

     エレーヌ・バンサン

公開   2014年8月2日

時間   106分

公開   フランス

 

   あらすじ 

 

アカデミー長編アニメーション賞を受賞した「ベルヴィル・ランデブー」や、ジャック・タチの遺稿をもとに映画化した「イリュージョニスト」などで知られるフランスのアニメーション作家シルバン・ショメが、初めて手がけた実写長編作。「ベルヴィル・ランデブー」のサントラで使われた楽曲「アッティラ・マルセル」に着想を得て、仏文豪マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」のエッセンスも織り交ぜながら、孤独な主人公が不思議な女性との出会いから失われた過去の記憶が呼び覚まされ、少しずつ変化していく人生を描いたファンタジックな物語。幼い頃に両親を亡くし、そのショックで言葉を話すことができなくなったポールは、伯母のもとで世界一のピアニストになるよう育てられる。友だちもいない孤独な人生を歩み、大人になったポールは、ある日、同じアパルトマンに住む謎めいた女性マダム・プルーストと出会う。彼女のいれたハーブティーを飲むと、固く閉ざされた心の奥底の記憶が呼び覚まされていき、ポールの人生に変化が訪れる。   映画.comより

 

     感想    

 

2歳の時に遭遇したある出来事がトラウマとなり、

言葉を失ったまま、32歳になってしまったポール。

 

心を閉ざし、他人とのコミュニケーションも放棄する彼が、

記憶を辿り、幼いころの本当の父と母を知ることで、

新しい人生を切り開いて行く、

現代のおとぎ話的物語。

 

 

映像の色合いも、作りも、ファンタジー的だが、
常に彼と一緒にいる、常に同じ服を着て、同じ歌を歌い、
同じように、ブランデーか何かのお酒につけたチェリーをひたすら食べる、
彼を育てる叔母二人がおとぎ話感を増幅させる。
 
 
そして何と言っても、
幼いころの記憶を手繰り寄せる手助けをしてくれる、
階下に住むマダムプルーストの、秘密の部屋が魅力的で神秘的だった。

 

部屋の入り口が、まず不思議なところについている。

螺旋階段の途中にある真っ白い壁の中に、埋め込まれている。

申し訳程度に表札らしきものは出ているが、ドアノブがない。

一瞬見ただけでは分からずに通り過ぎてしまいそう。

 

部屋の中に畑があり、なんと、野菜やハーブを育てている!!

ベランダ菜園をやるのとは違い、本格的に緑が育っているのだ。

光が良く入る小さな部屋の中全体を、

元気よくハーブやら、野菜やらの緑が覆いつくす。

まるで秘密の菜園。

 

本当にこんな生活が出来たら素敵だろうが、

実際問題、アパートやマンションでは絶対無理だろう。

日当たりが多少良くても、水はけが出来ない。

カビが大量発生して終わりだろう。

 

 

そう言えば、「グリーンカード」という映画のヒロインの部屋が、

足を踏み入れた途端、むせ返るような緑に囲まれた、

まるで森の中に入り込んでしまったような部屋で、

秘密の花園ならぬ、秘密の森のようだったのを思い出した。

 

 

 

 

部屋は、人それぞれを映し出す。

 

何気無く招き入れられた部屋が、驚きに満ちた、

興奮させられるほどの個性に満ちた部屋だったら、

誰もが嬉しくなってしまうだろう。

 

 

少し前のドラマ、「凪のお暇」に出てくる、

三田佳子演じる、守銭奴のようなおばあちゃんの部屋は、

いつも小銭を探して歩く、見た目の貧しさからは想像もつかない、

ローマの休日を」壁掛けの画面で楽しむ、優雅な部屋だったし、

 

 

 

 

塚地武雅演じる小学校の用務員をしている弟の徹信は、

コーヒー牛乳を飲みながらヘミングウェイを読んでいたが、

佐々木蔵之介演じる兄と一緒に住む「間宮兄弟」の部屋は、

ありとあらゆるジャンルの本に囲まれた

まるで図書館のような部屋だった。

 

 

 

 

 

秘密の部屋。
 
そんな秘密の菜園に住む神秘的なマダムプルースト
 
ポールは彼女の手引きにより、記憶を少しずつ取り戻していくわけだが、
欲を言えば、神秘的なハーブティーを淹れてくれる彼女が、
もう少し、魅力的な女性なら良かったなと思う。
 
作中の設定では、ちょっとイカれたおばさん、ということになっていたから、
仕方ないのかもしれない。
 
奇抜なフッァションでクマのような真っ黒な犬を連れ
ウクレレを弾く彼女は、確かにフツーじゃなくて、
忘れ去った遥か彼方の記憶も呼び戻してくれそうではあるが…
 

 

 

幼いころの記憶は、日々、遠ざかっていく。

歳をとればとるほど、記憶の彼方へ遠のいていく。

 

些末なことは殆ど思い出せないが、

朧げに浮かんでくる情景の、幼いころの記憶の中に

誰かに抱きしめられ、愛された記憶がある人は幸せだ。

 

何よりも素晴らしい贈り物をもらって、

生まれてきたもののようなものだと思う。

 

あるがままの自分を受け入れ、無条件の愛をくれる人々。

そんな人々の間に生まれただけで、その人はラッキーだ。

 

自信をもって、人生を歩いて行ける。

自分は愛されるに値する人間だと、確信することが出来るから。

 

 

しかし、そうでない人々もいる。
 
幼いころに愛を知らずに育った人は、心にハンディキャップ抱えて生きる。
見た目では全く分からないが、もがき苦しむ人もいる。
 
つらいけれど、それが現実。
 

ポールは幼いころの記憶を取り戻すことで、
人生を再出発することができた。
 
何も見えなっか闇から抜け出し、
いろんな色彩に溢れた自分だけの秘密の花園を持つこともできた。
(ピアノの上に!!)
 
 

私自身を振り返れば、あまり思い出したくない記憶が多い。
幼心に、悲しく、寂しかったことの方が多かった。
 
でも、時々思う。
 
こうして大人になれたのは、
たとえ抱きしめてはもらえなかったとしても、
誰かが手をかけ、育ててくれたから。
 
その愛が、たとえ10パーセントの愛であったとしても、
そこには、
確かに愛情があった、と思いたい。
 
 

 

 

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プルーストの「失われた時を求めて
いつかは、読もうと思っている本ですが、長すぎて躊躇しています…