人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「パワー・オブ・ワン」

 

  作品情報 

 

監督   ジョン・G・アヴィルドセン

脚本   ロバート・マーク・ケイメン

出演   スティーヴン・ドーフ

     モーガン・フリーマン

     アーミン・ミューラー=スタール

     ダニエル・クレイグ

公開   1993年4月10日

時間   127分

制作   アメリ

 

   あらすじ 

 

1930年代の南アフリカに生まれ育ったイギリス人の少年PK。幼くして両親を失い、様々な差別の中、一人ぼっちで強く生きる彼は、やがて二人の重要な人物に出会う。音楽を、そして大自然を通して人生を教えてくれたドイツ人ピアニストのドクと、ボクシングを教えてくれたズールー族のピートだ。ボクシングはPKに自信と勇気を与え、やがて彼は差別に苦しむ人々の希望となる。  アマゾンプライムより

 

   感想  

 

南アフリカで1948年から1994年まで行われた人種隔離政策「アパルトヘイト」。

 

ブライス・コートネイの自伝的小説をもとに製作された本作は、

アパルトヘイト」政策へと向かう南アフリカ共和国を舞台に、

一人のイギリス人少年の成長を丁寧に描く。

 

 

今、LGBT問題やME TOO運動などによって、

人間の多様性、人権、女性差別などについて、

公に議論され認知される時代が、やっと、やってきた。

 

しかし、今でも人種差別や、ひどい人権侵害を行っている国も

まだまだ沢山あり、虐げられている人々があまりに多いことに悲しくなる。

 

現在進行形で、「アパルトヘイト」政策と同じようなことが行われているということであり、進歩しない人類にため息しか出てこない。

 

世界は今、グローバリズムからナショナリズムへと向かっており、

それは、イギリスのEU離脱や、難民問題や、今回の新型コロナウィルスの

問題でも見て取れる。

 

グローバリズムの悪い側面に気づいた世界が、

仮に一歩間違え、正しいナショナリズムではなく、

間違ったナショナリズムへ向かったとき、

人種の区別ではなく、差別へと向かっていく可能性も出てくる。

 

自分の国を愛することは悪い事ではないが、行き過ぎるとそういった危険性も

出てくるのではないかと危惧してしまう…

 

 

主人公のPKはイギリス人だが、両親が亡くなると、

金銭面の事情で、イギリス人の寄宿学校へは行けず、

オランダ系白人が占めるアフリカーナーの寄宿学校に入る。

 

ちょうど、ヒットラーが台頭してきた時期も重なり、

PKはイギリス人と対立していたアフリカーナー達に、

壮絶な苛めにあう。

 

両親もなく、幼いPKはたった一人で孤独と戦うが、

大切な人々が皆いなくなり、大事にしていた鶏も殺され…

 

 

「孤独の鳥たちが僕の心に、大きな石の卵を産んだ」

 

 

自らに降りかかる不幸を淡々と受け止めるしかないPKの、

小さな肩が切ない。

 

 

 

差別による横暴や暴力が当たり前の社会にあって、

「公正」や「公平」という概念を持つことは難しい。

 

それが、当たり前の世界で生まれたら、疑問に思うこともないだろう。

 

差別が当たり前の世界。

差別される側にとっては正に地獄である。

 

 

 

人間にとって大切なことは「健康」と「知識」だ、

と、世界を旅するドイツ人ピアニストのドクは言う。

 

世界は広く、「一秒も無駄にできないほど、学ぶことは多い」

 

 

知識を蓄え、自分の頭で考えられないと、

周りに流され、多勢に染まっていく。

 

正しいことも、悪いことも判断できない、

操り人形のようになってしまうということだ。

 

これでは、生まれてきた甲斐がない。

 

人を差別し、憎悪で疲弊する暇があったら、一秒も無駄にせず、

広い知識を蓄えるべく、自分自身を使ったほうがよっぽど幸せだ。

 

 

PKは孤独の中で、ドクから「知識」を、

そして、ドクと一緒に入れられた刑務所で出会ったズールー族のピートから

ボクシング(健康)を習う。

 

体力づくりによって得られる強靭な肉体と精神は、強い。

 

人は健康があって初めて「意欲」が出てくるものだ。

 

 

刑務所で開いたコンサートで、

看守の意地悪な言葉を、ズールー語で黒人たちにわざと違訳し、

士気を高めるPKの頭の良さ、優しさ、公平に物事を見つめる目。

 

どの部族にも平等に接し、決して横柄な態度をとらない彼を、

伝説の男だと信じ、雨乞いの歌がいつも彼を包む。

 

 

白人と非白人。イギリス人とアフリカーナー

 

混沌とした世界で、PKは戦い続ける。

 

何度も、打ちのめされては立ち上がる。

まるでボクシングのように。

 

自ら考えることを止めてしまったら、歩みを止めてしまったら、

すぐに飲み込まれるだろう。

 

だから、PKは進み続ける。

 

自分で選び取る人生を。

 

 

人生において、「師」と呼べる人に出会えることは、とても幸せなことだ。

 

周りの大人が皆、自分で考える目を持っているとは限らない。

 

それは、ただ単に「知識」だけではなく、「生き方」そのものである場合もある。

 

モーガン・フリーマン演じるピートは、特に「生き様」そのままが、

ひととなり、態度、そのすべてが「師」と言える。

 

 

幼い目は、見つめいている。

 

はっきりと言葉で認識できなくとも、見たことを吸収している。

 

心で、見つめているのだ。

 

そう考えると私たち大人は、背筋を伸ばし、襟を正して生きねばならない、と思う。

 

 

中国では、今でもウィグル人の弾圧を続けている。

インドでもカースト制度は残っている。

アメリカでは、白人至上主義、KKKのような集団も存在する。

日本にも同和問題など、デリケートな問題が存在する。

 

知りたくない、と目を背けることもできる。

 

しかし私は、出来うる限り、色んなことを知りたいと思う。

 

「知る」ことが出来れば、小さくとも行動に繋がる。

 

一人ひとりが小さな雫でも、沢山集まれば、やがて大河となる。

 

いつかは、この作品の題名でもある「The Power of One」となるのだから。

 

 

 

ダニエル・クレイグが敵役で出演しています。若い!!

 

アマゾンプライムで見てみる