人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「カイロの紫のバラ」

 

  作品情報 

 

原題   The Purple Rose of Ciro

監督   ウディ・アレン

脚本   ウディ・アレン

出演   ミア・ファロー

     ジェフ・ダニエルズ

     ダニー・アイエロ

公開   1986年4月26日  

時間   84分

制作   アメリ

 

  あらすじ 

 

1930年代、ニュージャージー州。失業中の夫に代わり家計を支えるセシリアは、映画鑑賞をささやかな楽しみにしていた。お気に入りの映画を繰り返し観る彼女は、ある日『カイロの紫のバラ』という映画に心を奪われ、いつものように何度も劇場に通い始める。そして5度目の鑑賞中、映画の主人公トムが突如彼女に語りかけ、銀幕から現実世界へと抜け出してくるのだった。トムが銀幕から現れたことで劇場は一躍有名になり…  アマゾンより

 

  感想 

 

突然、銀幕のスターがスクリーンから抜け出し現実の世界に降り立つ、

ウディ・アレン脚本の、愉快で奇想天外なラブコメディ。

 

夢見がちで、どこか現実を生きていないフワフワした感覚で生きる

主人公セシリアを、ミア・ファローが魅力的に演じている。

 

おっとりとしていて、良く言えば、お人よし、悪く言えば、無知。

結婚しているが、働かずに遊びほうける夫に搾取される毎日。

おまけに暴力をふるう最低な男。

 

唯一の楽しみは映画鑑賞。

仕事をしていても、常に映画の事を考えてぼーっと生きる。

 

映画やドラマは、人生のスパイス。

映画好きな私としては、絶対に必要なものだと思うが、

人生そのものが映画に侵食され、自分の人生を真剣に考えられなくなるようでは、

本末転倒だとも思う。

 

時代背景のせいもあるのかもしれないが、

それにしても、セシリアの生き方は危なっかしい。

 

ミア・ファローのおっとりとした話し方が拍車をかけ、

観ているこちらは、ハラハラしっぱなし。(笑)

 

しかし、映画について語る彼女の表情、

映画館に入った時の何とも言えない幸せそうな彼女を見ると、

本当に映画を愛しているんだなぁと言うことが伝わってくる。

 

瞬き一つせず、食い入るようにスクリーンを見つめる彼女のもとに、

銀幕のスターが突然訪れたのも、頷ける。

 

荒唐無稽な話の展開ではあるが、

スクリーンの中の事しか知らない、世間知らずで純粋な、

映画の中のスター、トムと、夢見る少女のセシリアが本当にお似合いで、

微笑ましい。

 

あんなDV夫は捨てて、二人で幸せになってくれれば、

と、観ているほうは思ってしまうが、

そこは、ウディ・アレン、一筋縄ではいかないところが面白い。

 

突然、物語から登場人物が一人消えたスクリーンの中は大騒ぎとなり、

俳優と、観ている観客の間では喧々諤々の会話が…

 

配給会社や、映画館経営者も加わって、てんやわんやの騒ぎとなる。

 

そして、トムを演じた本物の俳優ギルが彼女の前に現れると、

物語は、また違った方向へと向かっていく。

 

トムとギル、一人二役を演じたジェフ・ダニエルズが、また良い。

 

あまり二枚目役や主人公を演じることのない彼だが、

この作品では、二枚目で純粋で、ロマンティックなスターを演じていて珍しい。

 

若いころは、イケメンだったのだ、と改めて認識。感慨深い…

 

小道具のお札でお勘定しようとしたり、

妊婦を見て驚いたり、

売春宿で、愛について語ったりする、

どこか抜けていて憎めない、愛くるしい表情がなんとも言えない。

 

 

軽快なスタンダードナンバーと会話が心地いい、

ノスタルジックで、おしゃれなウディ・アレン作品。

 

単なるハッピーエンドで終わらないラストは本当に印象深い。

 

 

「今夜は満月だ。踊りに行こう。」

 

 

ストレスにさらされる毎日や、つらい現実に、気持ちが落ち込むときもある。

 

そんな時は、考えることをやめ、悩みをひとまず横に置き、

セシリアのように、目を輝かせて、夢の世界を漂ってみよう。

 

現実逃避は映画の大きな醍醐味。

 

心も時には、解き放ってあげることが大切だ。