人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「人生はマラソンだ!」30キロを過ぎたら根性で走り切れ!

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  作品情報 

 

原題   De Marathon

監督   ディーデリック・コーパル

脚本   マルティン・ファン・ワールデンベルグ(兼出演)

     ヘーラルト・ムールダイク

出演   ステーファン・デ・ワレ

     マルセル・ヘンセマ

     ミムン・オアイーサ

     フランク・ラマース

公開   2014年6月21日

時間   113分

制作   オランダ

 

  あらすじ 

 

ロッテルダムで、自動車修理工場を営むギーア。従業員は、ニコ、レオ、キースの中年3人組と、移民の若者ユース。男たちは昼から缶ビール片手にカードゲームに興じ、マジメに働いているのはユースぐらいだ。そんなある日、ニコが税金の督促状の束を発見。ギーアは皆に経営不振を隠していたのだ。滞納した税金を支払うために、ギーアたちはスポンサーを口説き落として一か八かの賭けに出る。それはロッテルダム・マラソンに出場し「全員完走出来たら借金を肩代わりしてもらう。完走出来なきゃ工場を譲る」というもの。元マラソン選手のユースのコーチの下、スポーツとは全く無縁だった4人は、マラソン完走に向け、練習を開始したのだが……。
はたして4人はフィニッシュラインに辿り着くことが出来るのか?
スタートの号砲は鳴った!                 公式サイトより

 

  感想 

 

世の中には、商売に向かない人というのがいる。

お金を稼ぐ、儲けるということに興味がない。

まあ、ある程度食べていけて、まあまあ暮らしていければそれで良し、

という事だろうか。

毎日がそこそこ幸せであればいい。

 

 

自動車修理工場の社長であるギーアもその一人。

折角、先代から受け継いだ修理工場も、大きく広げようとか、儲けようとか、

そんな気持ちはさらさらないらしい。

 

従業員は4人。

でも仕事をしているのは、移民であるエジプト人のユース1人だけ。

ギーアを筆頭に、4人の中年男は大きく突き出たメタボ腹など気にもせず、

ビールを飲み、煙草を吸い、ジャンクフードを食べ、カードゲームに興じる。

 

 

時々やってくるお客を待ち、ひやかしながら面白おかしく仕事をしている。

 

どこにでもいそうな仲良し4人組の中年オジサンたちなのだ。

 

 

 しかし、ひょんなことからギーアが税金を滞納していると知ってしまい、

4人の生活は一変してしまう。

 

企業にスポンサーになってもらえば税金が返せると知った4人は、

なんと、無謀にもマラソンに挑戦することになるからだ。

 

さぁ、これから4人がどんどん鍛えられ、体形も変わって、

素晴らしいハッピーエンドが待っているのかと期待してしまうが、

そんな単純なストーリーではないところが面白い。

 

 

人生、長く生きていれば色んな事がある。

ストレスなんて全くなく、幸せに生きてます、なんていう人は本当に稀だろう。

 

みんな、何かを抱えて生きている。

 

ギーアは、母が認知症だし、息子は反抗期。

そのうえ、自分の体に異変が・・

 

レオには元娼婦だった妻、彼女の乳飲み子がいるが、

まだ1歳にも満たない子供を置いて、彼女はいつもどこかへ出掛けている。

 

キースは奥さんとの二人暮らしだが、鉄仮面のように無表情で、

敬虔なクリスチャンでもある彼女に完全に尻に敷かれている。

 

ニコは一人暮らし。みんなには隠しているつもりだが、ゲイだ。

 

 

やる気になった4人がウェアやシューズを揃えたり、軽快な音楽と共に新しい未来へ

レッツゴー!と勇んでいるシーンはこちらまで楽しくなってしまった。

 

キースの赤ちゃんと共にスポーツジムへ通い、公園で基礎体力作り、

駅のエスカレーターも走り、追い抜かれたオバサン集団をムキになって追い抜く。

 

 コミカルな音楽に合わせ、走る姿が何とも可笑しい。

 

 

人は、頑張っている人を応援したくなるものだ。

 

なんでこうなる前に気づかなかったんだ、

仕事にもっと身を入れていれば良かったではないか、というツッコミはさておき、

冴えないオジサン4人組が、それぞれの人生を背中に背負い、

苦悩しながらも必死に頑張っている姿は、切なくも愛おしい。

 

お金は無いが、家族を愛し、友人を大切にする、

修理工場の油にまみれた黒い指先を持つ、善良な人々を応援せずにはいられない。

 

 

人生にはラッキーもピンチもやってくる。

もしもピンチがやってきたときに、乗り越えられるのは自分自身しかいないが、

乗り越える力をくれるのは、大切な家族や友人。

自分の大切な人たちを笑顔にしたい、という強い気持ちなのだと思う。

 

 

だらしなく緩みきった体だったオジサンたちは、必死の練習で、

「燃費のいいディーゼルエンジン」を手に入れ、メタボ腹にさよならをつげ、

戦いに挑む。

 

大切な人たちの為に。

そして勿論、自分自身の為に。

 

 

 

 

移民難民というと、昨今はドイツを思い浮かべるが、オランダは1970年代から移民や難民を無条件で受け入れていたらしい。

人種差別のない寛容で裕福な国というイメージの為の、プロパガンダ的な要素もあったとか。。