人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「スモーク」

~世界の小さな片隅にすぎないが、おれの街角だ~

 

 

作品情報

   原題     Smoke     
   監督     ウェイン・ワン
   脚本     ポール・オースター
   出演者    ハーヴェイ・カイテル
           ウィリアム・ハート
          ストッカード・チャニング
        ハロルド・ペリノー・Jr
        フォレスト・ウィテカー

  公開       1995年10月7日
   上映時間    113分 (PG12)
   製作国     アメリカ・日本合作

 

あらすじ

 

ニューヨーク、ブルックリンの小さな煙草屋を舞台に繰り広げられる人間模様を、それぞれの真実と嘘、現在と過去を交錯させながら描いた群像ドラマ。現代アメリカを代表する作家ポール・オースターの短編「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を原作にオースター自らが脚本を手がけ、「ジョイ・ラック・クラブ」のウェイン・ワン監督がメガホンをとった。ブルックリンの片隅で煙草屋を営むオーギーは10年以上にわたり、毎日同じ場所で同じ時刻に写真を撮影している。煙草屋の常連客である作家ポールは、数年前に妻を亡くして以来、スランプに陥っていた。ある日、ポールは路上で車にひかれそうになったところをラシードという少年に助けられ、彼を2晩ほど自宅に泊めてあげることに。その数日後、ポールの前にラシードの叔母だという女性が現われ……。店主オーギー役を「レザボア・ドッグス」のハーベイ・カイテル、常連客ポール役を「蜘蛛女のキス」のウィリアム・ハートがそれぞれ好演。第45回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)を受賞し、日本でもロングランヒットを記録した。2016年12月、デジタルリマスター版でリバイバル公開。

 

 感想 
 
ブルックリンの下町の煙草屋を舞台に、いくつもの人生が交差する。
ときは流れ、季節は移ろい、人々も変わってゆく。
たった一つ変わらないもの、それは、そこに人々の営みがいつもあるということ。

煙草屋の主人オーギーは、そんな人々の営みが繰り返される毎日を、写真に撮り続ける。
朝の8時の7番街と3丁目の角。
毎朝、同じ時間に同じ場所で。4千日、1日も欠かしたことがない。
 
「皆、同じ写真だ」と言った作家の友人ポールに、彼は答える。

「同じようで、1枚1枚全部違う。
 よく晴れた朝、くもった朝、夏の日差し、秋の日差し、
 ウィークデー、週末。
 厚いコートの季節、Tシャツと短パンの季節。
 同じ顔、違った顔、
 新しい顔が常連になり、古い顔が消えていく。
 地球は太陽を回り、太陽光線は毎日違った角度で差す。」

  
人生は、煙草の煙のようなものかもしれない。
確かに、そこに白く煙っていた筈なのに、
いつの間にか、消えて無くなっている。
あまりにも短く、儚く、それは一瞬の出来事だ。
 
そんな煙のような日々を、オーギーは撮り続ける。

「世界の小さな片隅にすぎんが、いろんなことがおこる。おれの街角の記録」、、
だから。
  
  
孤独の海をさまよう魂たちが、一瞬、交差して、キラキラと輝く、
そんな瞬間がちりばめられた、優しくて味わい深いストーリー。

心のカサカサが癒される、珠玉の一作。