人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「フラガール」

 
   作品情報 
 
監督   李相日
脚本   李相日
     羽原大介
出演   蒼井優
     松雪泰子
     豊川悦司
     岸部一徳
公開   2006年9月23日
時間   120分
制作   日本
 
   あらすじ 
 
昭和40年、エネルギー革命により閉鎖が迫る炭鉱のまち。そこでは北国をハワイに変えようという起死回生のプロジェクトが持ち上がっていた。目玉となるのはフラダンスショー。誰もが見たことがなかったフラダンスを炭鉱娘に教えるため、東京からダンサー平山まどかが教師としてやってきた。旬を過ぎ、しがらみを抱えるが故に、最初は嫌々ながら教えるまどかだったが、生きるためにひたむきに踊る少女たちの姿に、いつしか忘れてかけていた情熱を思い出してゆく。しかし肌を露に腰蓑をつけるなど恥とされた時代、世間の風当たりは冷たく、教える相手は全くのド素人。果たして常夏の楽園は誕生するのか?オープンの日は迎えられるのか?  
    感想  
 
日本アカデミー賞を受賞したこの作品。
 
観終わると、目の前にはティッシュの山が出来るほど、
泣かされた。

「映画館で観なくて良かった」と心底思った。
 
何故なら、映画館で観たら、もっと感情移入し、
きっと私は嗚咽して泣いただろうから。(笑)
 
そして、こんなに良い映画に、お金を払っていないことに気付き、
猛烈に申し訳なくなった。

それくらい、良く出来た映画だった。
 
 
 
それにしても、いいところに目をつけた脚本だなぁと思う。
 
丁度あの頃、私の周りのママ友たちもフラダンスに夢中で、
かなりの人が教室に通っていたのを覚えている。
 
そんな背景もあったりして、興行収入もかなりのものだったらしい。

天の邪鬼の私は、猫も杓子もフラダンス状態に背を向けていたフシがあり、
今考えると、本当にもったいないことをした、と思う。
 
 
 
まず、何がいいって、松雪泰子がいい!
 
今まで観ていた彼女のイメージが良い意味で覆された。
 
細い体に、60年代のファッションがとても良く似合い、
男勝りだけれども、実は優しい人情家で、
女も惚れてしまうような「カッコイイ」女性、
平山先生役を、見事に演じきっている。
 
アカデミー賞、優秀主演女優賞も納得の演技だ。
 

特に、彼女が怒りに震えて男風呂に乗り込むシーンは最高で、
私は「笑いながら泣く」という、
竹中直人の芸風を体現しているかのような状態になってしまった!
 

そして、生徒役の蒼井優も素晴らしかった。
 
福島弁を見事に操り、芯の強い、炭鉱の町の女子学生を違和感なく演じ、
素晴らしいフラダンスを、躍動感たっぷりに踊ってみせた。
 

蒼井優と対立する母の富司純子

妹を見守りながらも炭鉱を捨て切れず苦悩する兄の豊川悦司

ハワイアンセンターオープンに向けて、ダンスチームを引っ張り、
奔走する炭鉱会社の岸部一徳
 
それぞれが、適材適所、見事な配役なのも見逃せない。
 
 
 
石炭からオイルへ、炭鉱が次々と閉鎖されていく時代。
 
時代の波は、容赦なく押し寄せ、
炭鉱で働く人々はリストラにあい、家族は途方に暮れる。
 

炭鉱の町の誇りが邪魔をして、なかなか新しいものを
受け入れることができない町の人々や、
父や母との対立。
 

凍てつく寒さに、人々の反対に、ぐっと耐えながらも、
着実にプロのダンサーになっていくフラガール達は、
暗く貧しい炭鉱町に差す、一条の光だ。
 
 
 
ラストの大団円は、息を飲む美しさ、素晴らしさで、
観る者の心を揺さぶらずにはおかない。
 
 

ただ一つ残念なことは、似たような設定の映画が、すでに何作かあり、
アカデミー賞外国語映画賞の日本代表だったらしいが、
知っている人にとっては、二番煎じ的なものになってしまった、
と言うことだ。
 

リトル・ダンサー「遠い空の向こうに」などは、
まさにそれで、貧しい炭鉱町、親との対立、そして成功と、
この2作品とも、素晴らしい作品だったこともあり、
比べられたことは間違いなく、非常に残念だ。
 
また、
そこはかとなく、可笑しみのある、温かい福島弁のニュアンスは、
やはり、日本人にしかわからないものだろう。
 
 
是非、外国語映画賞を獲って、もっと多くの世界の人々に、
観てもらえる機会を作って欲しかったと思うのが正直なところだが、
私達日本人にとっては、まさに宝と言える作品であるということは、
間違いないと思う。
 
 
親友との別れにも、たった一人の親との別れにも、
フラガールらしく気丈に笑ってみせた彼女たち。
 

私も彼女たちのように、強く、優しく、そして、ひたむきに生きていけたら、と思う。

 

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