人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「日日是好日」

 

 

  作品情報 

 

   監督    大森立嗣

   脚本    大森立嗣

   原作    森下典子

          日々是好日「お茶」が教えてくれた15のしあわせ
   出演者      黒木華
            樹木希林
            多部未華子
            鶴見辰吾
   公開       2018年10月13日
   上映時間     99分
   製作国      日本

 

  あらすじ 

 

真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな典子(黒木華)は、いとこの美智子(多部未華子)とともに「タダモノじ ゃない」と噂の武田先生(樹木希林)のもとで“お茶”を習う事になった。細い路地の先にある瓦屋根の一軒家。武田先生は挨 拶も程々に稽古をはじめるが、意味も理由もわからない所作にただ戸惑うふたり。「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っ ておいて、後から『心』が入るものなの。」と武田先生は言うが――。青春の機敏、就職の挫折、そして大切な人との別れ。人 生の居場所が見つからない典子だが、毎週お茶に通い続けることで、何かが変わっていった……。(C)2018「日日是好日」製作委員会     アマゾンプライムより

 

   感想  

 

雨の日は雨を聴く。

 

雪の日は雪を見て、

 

夏には夏の暑さを、

 

冬は身の切れるような寒さを。

 

五感を使って、全身で、

 

その瞬間を味わう。

 

 

幼いころ、私たちは五感をフル稼働させて

生きていた。

 

道端に落ちている何気無い石ころを拾って、

その冷たさ、丸み、重さを感じ、

 

花びらの形、色を、

食い入るように見つめ、

匂いを嗅いだ。

 

雨の音に耳をそばだて、

雷の音におののき、閃光に身を震わせた。

 

風がさわさわと、木々を揺らす音を聴き、

 

雪が降った日には、

大喜びで、白く静謐な世界に身を委ねた。

 

そして、

手のひらに落ちる雪の一粒一粒の

結晶に感動し、飽きることなく見つめ続けた。

 

 

時々、想う。

 

心に「静寂」が必要だと。

 

 

幼かった、あの頃。

心には静寂があった。

 

シンプルで、穏やかで、

時はゆっくりと流れていた。

 

 

 

この「日日是好日」という映画は、

お茶の世界を描いている。

 

茶道にも、華道にも疎い私にとっては、

全く未知の世界だったが、

 

背筋がピンと伸びるような、

 

それでいて、

心がじんわり温かくなるような、

 

幼かったあの頃の

心地よい静寂が

周りを優しく包み込んでいるような

 

そんな

心地のよい作品だった。

 

 

 

日本には「道」とつく世界が様々に存在する。

 

「剣道」「柔道」「空手道」「合気道

神道」「武士道」「書道」…

 

ちょっと思いつくだけでも

こんなにある。

 

そしてそのどの「道」にも型が存在する。

 

 

茶道もその例にもれない。

 

なぜ、茶碗の中で「の」の字や

「ゆ」の字を書くのか。

 

なぜ、畳は一畳を六歩で歩くのか。

 

樹木希林演じる武田先生は言う。

 

「お茶はまず『形』から。

 『形』を作っておいて、その入れ物に後から

 『心』が入るものなのよ。」

 

「頭で考えないで、自分の手を信じなさい。」

 

 

知りたいことは何でもネットで検索、

答えはすぐに見つかり、

 

効率化、スピード、

そんな言葉で溢れかえっている

この現代において、

 

この、頭で考えず、まず手を動かす。

まず体を使う、とういう行為ほど、

難しい事はないかもしれない。

 

何故この動作が必要なのか、

何のために行うのか。

 

速さを求め、回答をすぐに

知りたがる私たちにとっては、

「もどかしい」の一言につきる。

 

 

 

「世の中にはすぐわかるものと、

 すぐにわからないものがある。

 

 すぐにわからないものは

 長い時間をかけて

 少しずつわかってくる。」

 

それが、『道』なのだろう。

 

 

歳を経て、

わかってくる感情があるように、

 

きっと

私たちも

自分なりの『道』を究めている。

 

 

今はわからなくても、

 

指の先まで神経を研ぎ澄ませ、

この一瞬に心を集中させ、

全力で客人をもてなす

茶道のように、

 

私たちも自分の『道』を

丁寧にそして真剣に生きて、

 

一期一会の精神で

人と関わっていけたら、

 

わからなかったことが、

いつか

わかるようになるかもしれない。

 

 

時には、

心に「静寂」を持って、

 

心地よい風を感じ、

 

雲を眺め、

星を見つめながら。

 

私も私の『道』を歩いていこう。

 

 

 

フェリーニの「道」

十数年前に一度見たきりだったので、

もう一度見返したくなりました。