人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「ラッキー」

 

 

  作品情報 

 

原題   Lucky

監督   ジョン・キャロル・リンチ

脚本   ローガン・スパークス

     ドラゴ・スモンジャ

出演   ハリー・ディーン・スタントン

     デヴィッド・リンチ

     ロン・リビングストン

     トム・スケリット

公開   2018年3月17日

時間   88分

制作   アメリ

 

   あらすじ 

 

神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガを5ポーズ、21回こなしたあと、テンガロンハットをかぶり、行きつけのダイナーにでかけることを日課としている。店主のジョーと無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタが注いでくれたミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解くのがラッキーのお決まりだ。そして帰り道、理由は分からないが、植物が咲き乱れる場所の前を通る際に決まって「クソ女め」とつぶやくことも忘れない。
ある朝、突然気を失ったラッキーは人生の終わりが近づいていることを思い知らされ、初めて「死」と向き合うが ―                                                          「ラッキー」公式HPより

 

   感想   

 

90歳のラッキーは毎日、歩く、テキサスの埃っぽい町や、野や丘を。

 

90歳のラッキーは毎日、聴く、ラジオから流れるスペイン語の歌を。

 

90歳のラッキーは毎日、考える、クロスワードを解きながら。

 

90歳のラッキーは毎日、哲学する、日々の生活の中で。

 

 

 

「一人で生活する」ラッキーは、毎日、同じルーティンで生きる。

 

起きる、煙草に火をつける。

ラジオのスイッチを入れ、体をふき、髭をそる。

歯を磨き、髪をとかし、ヨガを行う。

グラスごと冷やしたミルクを一杯飲み、

ジーパンを履き、テンガロンハットをかぶり、家を出る。

 

私が想像する90歳の生活の、はるか上をいくラッキーの生活。

 

テキサスの乾いた青空を背に、テンガロンハットのラッキーが

煙草をふかす姿は、額縁にして飾りたいほどの滋味があり、

そして、かっこいい。

 

 

ラッキーの今までの人生は本当に「ラッキー」だった。

 

大きな病気もケガもなかった。

第二次世界大戦にも行ったが、調理場担当だった。

今は一人で暮らしているが、街には彼を気にかけ、

心配し、一緒にクロスワードを解き、お酒を飲み、

10歳の息子の誕生日会に招待してくれる

優しい人々がいる。

 

90歳になっても、「死」を真剣に考えることがなかった老人は

本当に「ラッキー」だと思う。

 

 

人生は与えられたカードで生きるしかない。

 

生まれつき健康な人、体の弱い人。

 

劇中の医師も言っているように、

本当に不思議だが、不摂生をしても

煙草を吸い続けても、お酒を飲み続けても

病気もせず長生きする人がいる。

 

「遺伝子的にラッキー」なのだ。

 

 

 

人はこの世に生を受けてから、

誰もがみな「死」に向かって歩いていく。

 

生活環境が劇的に変化し、超高齢者時代がやってきた今、

そして、これから年々老いを感じていくものとして、

ラッキーのように、「歩くこと」「考えること」「芸術に触れること」を

忘れたくないと思う。

 

 

90歳にして、初めて「死」を意識したラッキーが、

自分なりの「死」の受け入れ方を見つけていく過程を描いた

この作品、示唆に富んだ数々の言葉があり、深く考えさせられる。

 

 

最初に出てきた言葉が、最後のラッキーの表情に繋がっているし、(と、私は思う)

デヴィッド・リンチ(!!)演じる友人の亀ルーズベルトの話は、本当に哲学的。

何度も噛みしめたいエピソード。

 

ラッキーがスペイン語の歌を歌うシーンは、

色んな感情が湧き出てきて、涙が出た。

 

「老いる」って、そんなに悪い事でもないんじゃないかと思えてきて、

人間を、愛しく思えたから。

 

 

主人公を演じたハリー・ディーン・スタントンの遺作となった本作は、

何度でも繰り返し観て、理解して、私も「哲学」していきたい、

愛しい作品。

                  アマゾンプライムで視聴する