人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「グッバイ、レーニン!」

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  作品情報 

 

原題   Good Bye Lenin!  

監督   ヴォルフガング・ベッカー

脚本   ベルント・リヒテンブルク 他

出演   ダニエル・ブリュール

     カトリーン・ザース

     チュルパン・ハマートヴァ

公開   2004年2月21日

時間   121分

制作   ドイツ

 

  あらすじ 

 

 アレックスの母、クリ スティアーネは、夫が西側へ亡命して以来、祖国・東ドイツに忠誠心を抱いている。 建国40周年を祝う夜、クリスティアーネは、アレックスがデモ に参加している姿を見て心臓発作を起こし、昏睡に陥ってしまう。 意識が戻らないまま、ベルリンの壁は崩壊、東西ドイツは統一される。 8ヵ月後、奇跡的に目を覚ました母に再びショックを与えないため、アレックスはクリスティアーネの周囲を統一前の 状態に戻し、世の中が何も変わらないふりをしようとするが…。 アマゾンプライムより 

 

  感想 

 (ネタばれありです)

 

国が二つに分かれてしまうということ。

これは、日本人の私にとっては耐えがたく、また考えられないことだが、

世界を見渡せば、朝鮮やベトナムやドイツといった国々が、

過去から現在にかけ分断国家として存在し、

朝鮮では現在進行形で残っている現実がある。

 

自由主義社会主義、東側と西側、

ただ平和に、愛する人たちと暮らしたいだけなのに、

目に見えない大きなうねりに翻弄される市井の人びと。

 

東西冷戦が終わり、鉄のカーテンも取り払われたと思ったのも束の間、

米中戦争が静かに進行し、そうこうしているうちに、

追い打ちをかけるように新型コロナウィルスのせいで、

今度は、竹のカーテンが降りつつあるらしい。

 

今後の世界がどうなってしまうのか全く想像もつかず、

不安は増すばかりだが、世界が後退しないことを祈るばかりだ。

 

 

ベルリンの壁が崩壊し、東西が統一され現在のドイツになる前の

東ドイツに住むアレックスは、家族を、母を、本当に大切に、

心から愛する素晴らしい青年だ。

 

社会主義の国で、必死に社会貢献に生きた母がこん睡状態で8ヵ月を生き、

目覚めたときはすでに東西は統一され、西側の文化にすっかり染まっていた。

 

ベルリンの壁が壊されるのを、テレビのニュースで観たときの衝撃は、

今でも覚えている。つるはしを持って壁の上に立った人々が、

壁を壊しているあの映像は本当にインパクトがあった。

 

では、実際の人びとの暮らしがどんな風に変わっていったのか。

 

国営スーパーは物が豊富な西側のスーパーへ変貌し、

コカ・コーラの広告が掲げられ、ドライブスルーのドーナツ店もやってきた。

西側の車がどんどん流れ込み、交換期限が過ぎた東ドイツマルクは紙切れとなった。

 

豊富なニュース映像を取り入れたこの作品を通じて、統一された時の状況を

少し垣間見ることができ、とても興味深かった。

 

政府の作る下着が細身すぎると陳情書を書き、

派手なマタニティウェアを着たい女性の為に陳情書を書く。

青少年に、いかに社会主義東ドイツが素晴らしいかの歌を教え、

政府から表彰を受けた母。

 

その母の病状が悪化しないよう、統一前の生活が続いているかのように

見せかけるため、それはもう必死に、涙ぐましい努力をするアレックス。

 

東側時代のダサい服に着替え、古めかしい元のカーテンやインテリアに戻し、

ゴミ箱をあさり、ピクルスの瓶を探す。

テレビを見たいといった母の為に、西側だった友人の助けを借り、

テレビのニュースを作ってビデオテープに録り、それを流す。

 

仕事もあり恋人もいるが、なるべく母に寄り添い、あれこれと世話を焼く。

 

思想の大義名分の前に、人として大事なことは何なのか。

身近な人を守ること、ちっぽけでも、自分の世界に住む人々を幸せにすること。

当たり前のようで実はとても難しいこと。

 

アレックスの必死すぎる行動は、

自由主義だとか、社会主義だとか、共産主義だとか、

そんな曖昧で大きすぎる概念へのアイロニーのような気もしてくる。

 

うすうす感ずいていたであろう母が、最後に見せた笑顔は、

優しくたくましく育ってくれた息子への感謝と、

言葉にできない溢れる愛情だったのではないだろうか。

 

不幸にも体制に翻弄され続け、最愛の夫とも生き別れてしまった母。

 

ドイツ人初の宇宙飛行士となったジークムント・イェーンの口を借り、

 母に向けて語りかけた言葉は、広大な宇宙の中の小さな小さな惑星に住む

私たち人類に向けて語りかけているようにも感じる。

 

人類は何を成し遂げただろうか。

他者に手を差し伸べ、共存すること。

人生には車やテレビより大切なものがある。

善意を施し、労働に励み、

自らの手で、新しい人生を切り開こう。

 

アマゾンプライムで見てみる