「イル・ポスティーノ」
作品情報
原題 Il Postino
監督 マイケル・ラドフォード
脚本 マイケル・ラドフォード
マッシモ・トロイージ 他
出演 マッシモ・トロイージ
マリア・グラツィア・クチノッタ
レナート・スカルパ
公開 1996年5月18日
時間 108分
制作 イタリア・フランス・ベルギー
あらすじ
南イタリアの小さな緑の島。チリの偉大な詩人で外交官のパブロ・ネルーダが、祖国を追放されてイタリアに亡命し、この島に滞在することになった。世界中から届くファンレターを配達するため、青年マリオは臨時の配達人として採用される。ネルーダは美しい砂浜で自作の詩をマリオに聞かせ、詩のメタファーについて語った。やがてふたりの間には友情が生まれる。ある時、マリオは島の食堂で働く美しい娘ベアトリーチェに心奪われる。
感想
1950年代の一時期、実在したチリの詩人パブロ・ネルーダが
架空の漁村を舞台に描かれた、心に沁みる素晴らしい作品。
青く透明な海と、緑の山、切り立った崖と、どこまでも広がる真っ青な空。
ため息が出るほど美しい景色の中で紡がれる、魅力的な言葉の数々。
カンツォーネ、アコーディオンの入ったミュゼット、クラシカルなイタリア音楽に、
心の隅々まで栄養が行き渡り、癒される。
「ニューシネマパラダイス」を思い起こさせるが、
私は、断然この映画の方が好きだ。
マリオは、無口な父親と二人暮らし。
美しい海で網を放ち、漁をして生計を立てている。
しかし、マリオは漁があまり好きではない。
ここではない、どこかをぼんやりと夢見ている。
ある日、街の郵便局に配達員の募集があるのを見つけ応募する。
配達するのは一か所だけ。
チリから亡命してきたパブロ・ネルーダの住まいだ。
眼下に広がる青い海を眺めながら、自転車で坂道を上り、
山の中腹に位置する詩人の家まで、毎日郵便物を届ける。
小さな島に、亡命者で、しかも詩人がやってくる。
それは少なからずセンセーショナルな出来事だ。
島の狭い世界で生きる、貧しく気の弱い青年が、
パブロからもたらされる、詩や音楽を通して、
文化や、知識に触れ、少しずつ力強くなっていく。
純朴で、素直な青年パブロは、
「言葉の真っただ中で、揺れる小舟のようだ」
と言い、
今まで、うまく言えなかった心の内を、
言葉で詩で表現することの素晴らしさを知る。
生物の中で、言葉を操るのは人間だけだ。
喜怒哀楽や怖れ、感動、閃き、勇気、戦意、わびしさ、切なさ…
詩や散文、小説と言った文学で、
心が感じた一瞬を、言葉で直接、あるいは隠喩、倒置法、擬人法、
いろんな方法で表現することによって、しっくりと馴染ませる。
心の声を外に吐き出すことによって、生まれた感情を消化する。
それは時に、触れた人の琴線に触れ、感動を呼び起こす。
マリオは恋に落ち、恋人へ向け言葉を紡ごうともがく。
月を見つめて、ノートに丸い円を描く。
パブロの詩を拝借し、恋人へ送った。
裸の君は、その手のように素朴だ。
なめらかで地上的で 小さく丸々とし透明だ
月の輪郭 リンゴの小道
裸の麦のように繊細
裸の君は キューバの青い夜
髪の中に蔓と星がある
高村光太郎が智恵子にあてた
「裸形」という、美しい詩を思い出させる。
智恵子の裸形をわたくしは恋ふ。
星宿のやうに森厳で