「Love Letter」
作品情報
監督 岩井俊二
脚本 岩井俊二
出演 中山美穂
柏原 崇
時間 117分
公開 1995年3月25日
制作 日本
あらすじ
婚約者を亡くした渡辺博子は、忘れられない彼への思いから、彼が昔住んでいた小樽へと手紙を出した。すると、来るはずのない返事が返って来る。それをきっかけにして、彼と同姓同名で中学時代、彼と同級生だった女性と知り合うことになり…。
感想
全編を通じて流れるピアノと弦楽器の音色が白銀の世界を美しく彩り、
「手紙」「図書館」といったキーワードに郷愁を誘われる名作。
恋人を失くした女性、博子と、恋人の初恋相手であり恋人と同姓同名の名を持つ、
藤井樹の二人の女性を中山美穂が見事に演じている。
恋人が亡くなった山に向かい「お元気ですかー!!」と叫ぶシーンはあまりにも有名だが、真っ白な雪の上に仰向けに寝転び、生きていることを確かめるように呼吸をする博子から始まる冒頭のシーンも秀逸。
静謐な真っ白な世界で恋人に思いのたけを叫ぶ、このラストのシーンとの対比となっているようで、本当に上手い。
白銀の世界と、無垢な初恋、ウェディングドレスを着た花嫁、死。
映像とストーリー、これらのイメージが幾重にも重なり、私たちの心に優しく、しかし強烈に語り掛ける。
そして「~~だわ。」「~~よ。」「~~かしら。」といった、
往年の日本映画を彷彿とさせる日本語の美しさが、物語の清らかさを一層引き立てる。
物静かでおしとやかな博子、元気で明るい樹。
二人の女性と、今は亡き一人の男性を巡る二つのラブストーリー。
香川県の粟島には、漂流郵便局*1という郵便局がある。あて先不明の手紙が届くこの郵便局には現在も受取人のない郵便物が届き続けている。
届け先不明の想いが流れつく郵便局の物語。
恋人へ、10年後の孫へ、がんで急逝した夫へ、
11歳で天国に行ってしまった息子へ、祖父母の愛犬へ、ボイジャー1号へ・・・。
心に響き、心を揺さぶる手紙69通を収録。
これらは瀬戸内海の小さな島・粟島にある、不思議な郵便局に寄せられた手紙。
瓶に詰められた手紙が海を漂うように、
届けたくても届け先がわからない想いがブリキ製の漂流私書箱に集まる。
その名は「漂流郵便局」。
旧粟島郵便局を現代アートとしてよみがえらせたものだ。
胸の内に秘めた想いが綴られた手紙と、瀬戸内国際芸術祭作品としての精巧なしつらい、ゆったりと時がすすむ粟島の佇まい…。
涙とともに、なぜか懐かしく心地よく癒される世界へと、読む人を誘う。
きっと誰もが心の奥に秘める思いがある。
メールや電話ですぐに想いを伝えられる現在だが、本当に伝えたい気持ちを伝えるには、手紙に勝るものはないだろう。
亡くなった恋人が忘れられない博子も、届くはずのない手紙を出す。
「お元気ですか?私は元気です。」と。
すると、同姓同名で同じクラスだった同級生「藤井樹」から返事がくる。
「あなたは誰ですか?」と。
そこから二人の奇妙な文通が始まり、徐々に亡くなった恋人「藤井樹」と恋人の初恋相手だった「藤井樹」の淡い青春が語られ始める。
二人の日直当番の日の黒板の相合傘に興味なさそうな「樹」。
答案が間違って返され、樹に自転車のペダルを回させながら、そのライトでいつまでも答え合わせをする「樹」。
クラスメートに二人がわざと図書委員にされ、友人に殴り掛かった「樹」。
仲を取り持って欲しいと言われた友人を紹介すると、
怒って図書室を出ていった「樹」。
読みもしないのに、図書カードの一番最初に「藤井樹」と書いて
何冊も借りていく「樹」。
直接的ではない、あまりに淡くもどかしい「恋心」の表現。
「樹」自身も、どうしていいかわからない気持ちを持て余しているような、
ガラスのような透明で無垢な青春の1ページ。
恋人は同姓同名のこの女性に恋していたのだろうか?
卒業アルバムを見て、藤井樹と顔が似ている自分に気づき、もしかしたら、容姿が
似ているせいで自分を好きになったのだろうかと、涙を流す博子が何とも切ない。
過去の「樹」に触れることで、多分知りたくなかったであろう部分に思わず触れてしまった博子の気持ちを思うと、女性としては、、、かなり辛い。
しかし、過去もひっくるめて全てを受け入れるのが「愛」なのかもしれない。
「お元気ですかー!!」と亡き恋人に挨拶した博子は、多分、前進するだろう。
報われなかった、少し痛みの残る「愛」を抱いて。
そして、最後の最後に「樹」の気持ちにやっと気づく、もう一人の樹。
引っ越していく前に家に訪れた「樹」に渡された「失われた時を求めて」。
図書カードの裏にあった秘密に、観ているこちらの胸も締め付けられるような、
温かさと優しさと愛に包まれる。
淡く甘酸っぱく、そして少しばかり気恥ずかしい、青春の記憶が蘇る。
雪のちらつく公園で、そっとクリスマスプレゼントを手渡してくれた、
私の好きだったあの人は今もどこかで元気にしているだろうか。
雪のような便せんに、いつか手紙を書いて出してみよう。
きっと漂流郵便局に届くはずだから。。。
小樽市に存在した旧坂別邸*2で撮影された樹の部屋はクラシカルでおしゃれで本当に素敵だった。樹はずっと咳をしていたが、あんな部屋で眠りについたら、きっと素敵だろうな。