人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「ブランカとギター弾き」

 

  作品情報 

 

原題   BLANKA

監督   長谷井宏紀

脚本   長谷井広紀

出演   サイデル・ガブテロ

     ピーター・ミラリ

     ジョマル・ピスヨ

     レイモンド・カマチョ

公開   2017年7月29日

時間   77分

制作   イタリア

 

  あらすじ 

二人でいれば、悲しみは半分。しあわせはたくさん。夏の果ての街角を、愛の歌が通り抜けていく--。フィリピン、真夏のマニラ。“お母さんをお金で買う”ことを思いついた孤児の少女ブランカは、ある日、盲目のギター弾きピーターと出会う。ブランカはピーターから、得意な歌でお金を稼ぐことを教わり、二人はレストランで歌う仕事を得る。ブランカの計画は順調に運ぶように見えたが、一方で、彼女の身には思いもよらぬ危険が迫っていた…。    アマゾンプライムより 

 

  感想 

 

日本人監督として初めてベネツィアビエンナーレ&ベネツィア国際映画祭による

全額出資を得て製作されたイタリア映画。

ヨーロッパとフィリピンを中心に活動を続けてきた長谷井監督の長編監督デビュー作。

 

ヴェネツィア国際映画祭マジックランタン賞を始め、

海外でも複数の映画賞を受賞している。

 

★マジックランタン賞=映画祭の全作品が対象の、若者から贈られる賞。

過去にチャン・イーモウ監督作『あの子を探して』、

ダーレン・アロノフスキー監督作『レスラー』など錚々たる作品が受賞している。

 

 

 

この映画、何が凄いって、主要人物の4人全員が、素人だということ。

 

特にストリートチルドレン役の男の子二人は、本当のストリートチルドレン

 

監督がスラムでキャスティングを行った際に、目に留まった二人らしい。

 

主人公のブランカ役のサイデル・ガブテロちゃんは、

you tubeにアップしていた動画が、たまたま「ビアンカとギター弾き」の

プロデューサーの目に留まり、キャスティングが決まった。

 

そして、物語のもう一人の主要人物ピーターを演じるピーター・ミラリは、

マニラの地下道で実際にギターを弾いていた時に、長谷井監督と出会っている。

 

 

4人とも、素晴らしい演技で、予備知識なしに観た私は、

観終わって公式サイトを覗いてビックリした。

 

特に主人公を演じたサイデル・ガブテロちゃんは、本当に素晴らしいの一言。

 

やり場のない怒り、悲しみと、まだ捨てていない生きる希望を、

強い意志と共に瞳の奥に湛える、強く美しい表情。

 

時々、垣間見せる子供らしい笑顔。

 

どれをとっても強く惹きつけられ、一瞬も目を離すことが出来なかった。

 

 

日本でストリートチルドレンを見かけることは皆無だが、

世界を見渡せば、親に捨てられ、あるいは、親を殺され、

また或いは、家族のどうしようもない貧困から、

ストリートチルドレンとして生活する子供たちが、

多数存在するという事実がある。

 

着の身着のまま、ゴミの山で金目になりそうなものを探し、

無防備な大人たちから財布やスマートフォンを盗み、

小さな体で、精いっぱい生きている。

 

しかし、そこには、犯罪、売春、レイプ、薬、などで、

身を滅ぼしてしまう、痛ましさも、また、存在する。

 

本来、大人の庇護のもと、夢の中を生きるように、

幸せな日々を送るべき子供たちが、

自らの食べ物を得るために、裸足で駆けずり回る一日を過ごし、

路上で体を横たえて眠らなければならない。

 

自分を守ってくれる親がいないばかりでなく、

体を守ってくれる靴や服すらも無い。

 

その境遇を想像するだけで、

まともな大人なら胸が痛むだろう。

 

コロナ禍により、「自粛疲れ」が叫ばれ始めてきているが、

日本に生まれ、安心して暮らせる家があること、もうそれだけで、

私たちは感謝しなければならないと思う。

 

 

「お母さんを買いたい!」と言ったブランカに、ピーターは答える。

 

「お金で買えるものと買えないものがあるんだよ。」

 

しかし、ブランカの的を得た返答は、

ぐうの音も出ないほど、私たち大人を打ちのめす。

 

「子どもを買う大人はいるのに、子どもが大人を買っちゃいけないの?!」

 

 

お金を得ること、食べ物を得ること、

本来、大人になって考えるべき事柄を心配し、

不安を胸に生きなければならないブランカ

 

何の心配もせずに、友達と遊び、勉強し、

母の胸で甘えながら、眠りにつくことを夢にみる。

 

 

「目に見えるものにこだわりすぎだな。」

盲目のギター弾きピーターはつぶやく。

 

誰も信じることのできない過酷な環境で生きるストリートチルドレンが、

ピーターのような、まともな大人に出会えたことに、

微かな希望が見える。

 

遊園地で、目の見えないピーターに、

乗り物に乗りながら必死で叫ぶブランカ

 

「ピーター! 私はここよーー!!」と。

 

ビアンカの満面の笑顔に、胸が締め付けられる思いがした。

 

 

自分の安住の地を探し続けるブランカが、

最後のシーンで見せた表情に、涙が止まらない。

 

 

 

長谷井監督がなぜ、この映画を撮ろうと思ったのか、ということが、

クリスチャンプレスというサイトに載っていた。

 

以下、引用。

 

「その時ちょうどアイスクリーム屋が来たので、買ってあげようと思ったら、50人くらい子供が集まってくるんですね。でも、その中の8歳くらいの子供が『宏紀のは俺がおごるよ』って言うんです。年齢とか関係ない、人同士の交流というか、子供たちの姿に素晴らしいものを感じ、それを映画にしたいと思いました。
僕たちは生活をする中で、いろんなことを諦めています。『社会ってこんなモノだ』みたいに。でも、子供たちの中にはとても光る美しいものがあって、その彼らの視点で社会を見た時に伝えられるものは何かなと思ったのです。この映画は、路上に生きる子供たちの視点を借りて、力強く生きる子供たちと楽しんで作った映画なんです」

 

 

 

アマゾンプライムで観る