人生の《処方箋的》映画考

この「ままならない人生」を歩むとき、一つの映画がそっと、背中を押してくれる時もあれば、優しく寄り添ってくれるときもあります。 心を癒し、また、鼓舞してくれる映画を中心に、感想を綴っています。

「バンド・ワゴン」

 

  作品情報 

 

原題   Tha Band Wagon

監督   ヴィンセント・ミネリ

脚本   ベティ・コムデン

     アドルフ・グリーン

出演   フレッド・アステア

     シド・チャリシー

     ジャック・ブキャナン

     オスカー・レヴァント

公開   1953年12月15日

時間   112分

制作   アメリ

 

   あらすじ  

 

 かつてダンス映画で名声を得た俳優トニー。その彼も今や俳優生命に陰りが見え始めていた。そんな時、旧友のマートン夫妻が、彼のために書き下ろしたミュージカル・コメディ「バンド・ワゴン」の舞台化案を持ち掛けてくる。トニーは初め戸惑うも、その企画へ参加することに。さらにそこへ、ジェフリーという男も協力者としてやって来る。彼は作品の近代的な音楽劇化を提案。その突飛な発想で、トニーの共演者に新進バレリーナのガブリエルを抜擢した。こうして彼らは、ジェフリーのアイデアに不安を抱きながら初演を迎えるのだが…。 Yahoo映画より

 

 

    感想  

 

ミュージカル映画の最高傑作と言われる作品。

 

フレッド・アステアの歌や踊りは全盛期を過ぎて尚、素晴らしい。

 

この時、54歳。信じられないほどのエンターテイナー!

 

カンカン帽を被り、靴磨きを相手に「Shine  on your shoes」を踊るシーンなどは、

軽やかなステップとタップ、大きな動きを見せていて、冒頭から驚く。

 

シド・チャリシーを相手に夜の公園で華麗にダンスを踊ったかと思うと、

三つ子のシーンで笑わせ、ジャック・ブキャナンと二人で踊るシーンは、

シルクハットに燕尾服で品格を感じさせる流麗なステップを踏む。

 

舞台の裏側を余すことなく、見せているこの作品は、

ミュージカル好き、舞台好きな人にとっては堪らない作品だろうと思う。

 

フレッド・アステア扮するトニー、落ちぶれた俳優が一人で歌う「By myself」、

「我が道を行こう。人込みの中も一人で」

「我が道を行こう。空を飛ぶ鳥のように」もまた、哀愁があり味わい深く大好きだ。

 

しかし、印象深いのは彼だけではない。

 

ジャック・ブキャナンの存在感がすごいのだ!

 

アステアの品のある佇まいとは全く違う、声は大きく、エネルギーの塊、

どんな逆境も気にしない、前だけを見つめる男、

才能溢れ、猪突猛進、誰もが彼の強引さに巻き込まれていくジェフリー・コルドバ

怪演している。

 

問題山積の舞台公開の3日前、

「人手が足りない!」「エレベーターが…」と詰め寄る団員に、

「頑張れ!」の一言で前に突き進むコルドバ

 

思わず吹き出して笑ってしまう。

 

最終的に、コルドバの舞台は失敗し、

トニーがリーダーとなり、新しい「バンド・ワゴン」は大成功を収めるわけだが、

落ちぶれ、自信を失くしたかつてのスターにエネルギーを注入し、

結果的に、やる気を起こさせたコルドバの功績は大きいと思う。

 

そして、忘れてはならないのは、女性陣のファッション、スタイルだ。

 

色使いが観ていて、本当に勉強になる。

シンプルな淡い色合いの多い衣装だが、そのシンプルな中にひとつ、

際立つワンポイントをおく。

 

ヒロインのギャビーの衣装に真っ白なワンピースが多かったが、

ベルトの代わりに巻いているスカーフが、ぐっと全体を引き締めていて美しい。

 

トニーの部屋に尋ねに行く場面では、持っている籐のかごの持ち手とベルトの布が

同じもので、すぐにでもマネしたくなる可愛さ!

 

スタイルが皆よく、ウエストが細く、別次元ではあるが(笑)、

色使いや小物使いの参考になり、観ていて飽きない。

 

 

「温故知新」という言葉があるように、

昔のものが思わぬインスピレーションを与えてくれ、

新しい自分へと導く手助けをしてくれることもある。

 

人は、新しいものをもっともっとと求めるが、

古いお鍋を大切に磨いて使い続けるように、過去の時間に想いを馳せ、

慈しむ時間も大切にしていきたい、と思わせてくれる。

 

フレッド・アステアの流麗なステップに酔い、ジャック・ブキャナンの大声に

勇気づけられる、古き良き時代の傑作。

 

 

 マイケル・ジャクソンにも影響を与えたと言われる劇中劇にも注目!!